
アーティストコラボ『&iloilo』第一弾「コーヒーのうつわ」のすべて
iloiloが作家やクリエイターと共同で商品を創造する『&iloilo(アンド イロイロ)』プロジェクトの第一弾、「コーヒーのうつわ by Hiromu Nagato」。
このコーヒーのうつわについて、詳しくご紹介します。
「コーヒーのうつわ」とは
このプロジェクトで私たちがテーマにしたのは、「コーヒーを飲むためのうつわ」を作ることです。
最初に想像したのは、一年が終わる大晦日の午後。
「年越しの準備を終えて、家族と一緒にほっと一息コーヒーを淹れる時間。一年を振り返りながら大事な人と過ごす時、どんなうつわでコーヒーを飲んだらより美味しく感じるだろうか?」
そんな話を長戸さんと交わして、アイデアを膨らませていきました。
コラボレーション作家 Hiromu Nagato
コラボレーション作家は、陶芸家の長戸裕夢さん。
約270年前に北川毛窯から始まったとされる砥部焼(とべやき)の産地で、四代続く陶芸一家に生まれ、現在も家族と共に作陶をしています。
砥部焼は、地元で採取される粗面岩質安山岩の陶石を原材料にした磁器が特徴。
自ら材料の土を採掘したり、地元の柑橘木の灰を使った釉薬を試すなど、オリジナリティに富んだうつわに挑戦し続けています。
このコーヒーのうつわも、長戸さんオリジンのアートピースであると言えるでしょう。
長戸 裕夢 Hiromu Nagato
京都府立陶工高等技術専門校、京都市工業試験場を修了後、愛媛の磁器産地、砥部にて作陶。
家業の磁器制作と並行して、自ら掘り出した土を使い、真黒く炭化させた炻器シリーズや蜜柑の木の灰を用いた釉薬を使い、土味豊かな作品群を制作。
かたちについて
「抹茶は両手でうつわを持って、ゆっくりいただくものです。コーヒーは文字通り“片手間”に飲む印象がありました。だから今回は、コーヒーを時間を作って飲むことを意識して、両手で持つうつわにしようと思いました。」
そう語るのは、普段コーヒーよりも抹茶を好んで嗜むという長戸さん。抹茶が好きな理由は「手を止めてゆっくりとする時間」だと言います。
コーヒーのうつわは、大人の両手にちょうど収まるサイズ。両手で暖かいコーヒーとともに包んで、ゆったりと流れるひと時を楽しみたいものです。
実際に持ってみると、うつわのまあるい形が手によく馴染みます。
ゆがみのある形は、長戸さんが太古の人々が使っていた“土器”からインスピレーションを受けているため。
長戸さんが以前制作された土器をテーマにしたシリーズと同じ型を使い、粘土を型に押し当てて手の感覚で厚さを測って成形をしています。そのため、ひとつとして同じ形のうつわはありません。
手に持った時、口をつけた瞬間に、うつわの“表情”を感じられるのも、この「コーヒーのうつわ」の大きな特徴です。
それぞれの色合い・紋様
現在8種類取扱中の「コーヒーのうつわ」。
それぞれに使われた土は、すべて長戸さんが地元・砥部町で採掘を行ったもの。
作品の窯入れは、朝9時から翌日の午前2時頃までかけて行い、長戸さん自身が温度計や熱量を見て、火を止めるタイミングを決めます。
「窯出しの瞬間が一番楽しい」と長戸さんいいます。うつわの色、質感は窯出しのときに初めて見ることができるのです。
また、これらの柄は長年興味を持ち続けている、日本や中国、朝鮮、そしてアフリカなど幅広い地域の土器や古陶から多くのインスピレーションを受けて取り入れたもの。
長戸さんのオリジナリティあふれる個性的な8種類のうつわを、それぞれ紹介します。
HAKUYU —白釉2019—
この白釉碗(はくゆうわん)は、象嵌碗と同じ赤土が使われています。
そして、とろりと溶けた白い釉薬は、掘ってきた土と、老木となり処分されることになった地元のみかんの木の灰とを掛け合わせたもの。
釉薬をかけるのは1度きり。素地に釉薬をかけて、その垂れ具合は自然に任せています。
今回の制作で、遊び心をもって挑戦した部分でもあるそう。釉薬の流れ具合はうつわによって異なりますが、どれも青みを帯びた白い釉薬と赤土の色のコントラストがとても美しいうつわです。
ZOGAN —象嵌碗—
元々は「さや」と呼ばれるうつわに灰がかぶらないように守る窯道具に使用していた土です。目の粗い土で、少しざらっとした手触りがあります。
そして「象嵌」という技法で、素地に白い化粧土を埋め込んで線の文様をつけています。
象嵌碗は今回制作した「コーヒーのうつわ」の中でも、一番モチーフがはっきりしていおり、照りのある釉薬とモノクロームな色合いが美しい反面、線の印象がどことなく可愛らしく、個性的なうつわをお探しの方におすすめしたい一点です。
CHOMON —彫文碗—
彫文碗と名付けられたこのうつわの土は、長戸さんが地元・砥部町で採掘を行ったもの。
町のいくつかのポイントで数種類の土を採掘しており、このうつわは、江戸時代に北川毛窯でよく使われていたとされる薄茶の土を使っています。
この綱のようにも見える文様は、アフリカの土器について調べていたときに見つけた、古い時代の人々が身につけていた腰掛けにあった文様。人が暮らしのなかで使っていた物から着想を得て、うつわに落とし込んでいるのです。
釉薬は、掘ってきた土やみかんの木の灰を混ぜた緑釉(りょくゆう)。つややかで透明な、緑がかったガラス質が美しい一品です。
HAKEME —刷毛目碗—
このうつわの土は、長戸さんが地元・砥部町で採掘を行った「赤土」を使っています。
白化粧土の刷毛目が美しく、また細かな掻き落としの模様も渋みがあります。
ガラス質の釉薬が赤土の鮮やかさを抑え、落ち着いた色味を実現しています。
GOSUE —呉須絵碗—
この呉須絵碗(ごすえわん)は、シリーズの中で唯一の磁器。
長戸さんが地元で採掘した砥部の陶石を使用しています。釉薬は透明感をもち、かつさらりとしたマット釉です。
このマットな質感を出すために、長戸さんは焼成の融点に工夫を重ねたといいます。
ほんのり青みがかったうつわの白色と、呉須の色が美しいうつわです。
HAKUTSUI —白堆碗—
この白堆碗(はくついわん)に使用されたのは、彫文碗同様、江戸時代に北川毛窯でよく使われていたとされる薄茶の土。
青みがかった釉薬の淡い色合いが美しく、また花のような紋様も儚げで、可憐なうつわです。
長戸さんは、この紋様には朝鮮の古陶を参考にしたといい、どこかオリエンタルな雰囲気を醸し出しています。
TETSUE —鉄絵碗/灰釉—
このうつわに使われた土は、江戸時代に北川毛窯でよく使われていたとされるベーシックな薄茶の土。
文様は、世界各地の土器にインスピレーションを受けた線や点をランダムに描いています。
釉薬は、掘ってきた土砥部焼に用いる陶石やみかんの木の灰を使用した灰釉(はいぐすり)。
表面はつややかで透明なガラス質で覆われています。土と釉薬によって淡い薄茶色が浮かび上がる、貫入の入ったうつわです。
TETSUE —鉄絵碗/青瓷—
「青瓷」は、「青磁」とおなじく「せいじ」と読みます。
どちらにも、使われるのは同じ種類の釉薬ですが、違いは素地が磁器であるか陶器であるか、というもの。
こちらは、素地が陶器なので「青瓷」。文字だけでも美しく感じられますね。
素地の陶器は鉄絵碗と同じ薄茶色の土ですが、還元焼成で仕上げた鉄分の純粋な淡いブルーが覆い、このような繊細な色味に仕上げています。
新しい日常を形づくる
「自分の想像以外のものからインスパイアされるのは、新しいチャレンジだと思いました。」と、制作について話してくれた長戸さん。
砥部周辺で最も古いとされる270年前の北川毛窯の陶片をもとに、古砥部の技法の再現に挑戦するなど、まだまだ陶磁器の可能性を追求し続けています。
コーヒーを美味しくいただく、コーヒーを飲む時間を少しだけ緩やかにする、温度や香りを楽しむ。
日常のなかで、うつわと一緒に新しいスタイルを作り上げていただきたいと私たちは考えています。
『& iloilo』と長戸さんの提案する「コーヒーのうつわ」を、お手元でお楽しみいただければ幸いです。
By ILOILO LIFE STORE